新型ウイルス経済支援、最も手厚い国はどこ?

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画像説明, 世界経済を立て直すことはできるだろうか

新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるためのロックダウン(都市封鎖)が世界中で敷かれ、各国が緊急事態に陥っている。1930年代以来で最悪の景気後退が予想される中、その打撃を和らげようと大規模な経済支援を打ち出している。

国際通貨基金(IMF)によると、4月7日時点で、世界中の国々が合わせて4兆5000億ドル(約478兆9000億円)相当の緊急措置を承認している。この額は、その後数週間は増加傾向にある。

では、各国の経済支援を比較するとどうだろうか。

新たな財政支出

米コロンビア大学経済学部のセイハン・エルジン教授は、世界中の同僚と連携し、166カ国の対応を追跡してきた。

エルジン教授の試算によると、最も積極的な対応のひとつが日本政府が打ち出した、同国の国内総生産(GDP)の約2割にあたる108兆円規模の政策パッケージだ(日本を上回っているのは、欧州連合の基金からの利益を受けるマルタのみ)。

他国と比べると、アメリカはGDPの約14%、オーストラリアは同11%、カナダは同8.4%、イギリスは同5%、コロンビアは同1.5%、ガンビアは同0.6%にあたる救済支出を打ち出している。

画像説明, 新型コロナウイルスをめぐる経済政策パッケージの規模をGDPにおける割合でみた場合の上位20カ国

しかし、中央銀行の対応など支出以外の手段を考慮すると、この順位は変わってくる。

例えば、欧州の主要国では、ロックダウンによる打撃を受けた事業者に対し、新たな融資を保証すると政府は約束している。これには、銀行の融資を維持し、破綻を回避する意味合いがある。

米中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)も同様の目的で融資計画に踏み込んでいる。

こういった対応を考慮すると、フランスが最上位となり、イギリスは47位から5位に浮上する。

エルジン教授によると、最大規模の支出がなされたのは、より裕福で歴史が長く、病床がより少ない国だったという。投資家が債権購入に意欲的で、低い借入コストの恩恵を受けるアメリカや日本などの国もまた、新たな財政支出を調達する上で有利な立場にあるという。

一方でエルジン氏は、支出規模が有効性に結びつくと勘違いしてはならないと指摘する。

「これらの政策パッケージに含まれるすべての異なる項目は、異なる乗数効果を生み出し、異なる結果を生み出す可能性がある」

IMFのパオロ・マウロ財政局副局長は、企業向けの救済措置は「先進国」でみられる傾向だと指摘する。マウロ氏によると、救済総額は膨大になる可能性はあるものの、多くの企業は計画通りに融資を返済できることから、このような救済プログラムは比較的リスクが低いという。

こうした中、一部の貧しい国では、準備を進めている対策を実行するには、国際機関やそのほかの援助者から資金を調達する必要がある。

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画像説明, インドの救済策には、貧困層への米や豆類の配給も含まれる

ダイレクト・ペイメント(直接支払い)

世界中の救済計画の中には、現金振り込みなどのいくつかの戦略が見受けられる。

多くの国では、貧困層や非公式経済部門で働く、ほかの救済プログラムでは援助を受けられない可能性が高い人、あるいは仕事が封鎖措置の影響を受けている人を対象としている。

例えばカナダは、新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)で収入が途絶えた人に対し、月々2000カナダドル(約15万2000円)を最長4カ月間支給している。

一方コスタリカでは、失業者に対し月々220ドル(約2万3000円)の手当てが支給されている。

アメリカや一部のアジア諸国では、より広範な対策を講じている。

画像説明, 新型ウイルス経済対策における国民1人あたりの給付金額(出典:経済協力開発機構)

年収9万9000ドル(約1050万円)以下のすべての米市民(全世帯の約9割と推定)は、成人1人あたり最大1200ドル(約12万7000円)が支給される。

韓国では、所得が低い方から70%の世帯に対し、100万ウォン(約8万7000円)の小切手を送付している。

香港は今年2月、成人1人あたり1万香港ドル(約13万7000円)を支給すると発表した。

日本では、住民基本台帳に記載されている全ての人を対象に、1人あたり10万円が、シンガポールでは600シンガポールドル(約4万5000円)が支給される。

対照的に多くの欧州諸国では、増加するニーズに対応するため、1回限りの給付金ではなく、比較的強力な既存のセーフティーネット(安全網)プログラムに頼っている。例えば、イギリスの「ユニバーサル・クレジット」制度(低所得者向け給付制度)がこれにあたる。

「経済学者が何を自動安定装置(オートマティック・スタビライザー)と捉えるかの違いだ」と、IMFのマウロ氏は指摘する。

「米国内では自由裁量的対応が非常に大きい。しかし比較する際には、社会的セーフティーネットがより小さいため、米国では実際により多くのことを行う必要があることを考慮しなければならない」

賃金助成金

ほかの一般的な戦略は、ロックダウン措置の影響を受けている企業への賃金補助だ。企業が従業員の雇用を維持することで、規制解除後に経済がより早く回復することが期待されている。

オランダは、最も手厚い計画を進めている国の1つだ。政府は、対象となる企業の賃金コストを最大90%補助すると約束している。

一方フランスでは、総賃金の84%を補助している。また、最低賃金で働く人については、賃金を最大100%補助するという。

イギリスでは少なくとも3カ月間、一時帰休になった労働者の賃金の80%を、1人あたり月に最大2500ポンド(約32万9000円)までを、カナダでは賃金の75%を最大3カ月間補助するという。

これらの多くの計画は、既存の「短期労働」プログラムに基づいている。

こうしたプログラムがまだ普及していなかったアメリカでは、直接的な対応はあまり講じられておらず、事業貸し付けに6500億ドル(約69兆1500億円)以上が投じられている。この貸し付けは、企業側が従業員数を維持し、2カ月以内にその大半を賃金の支払いにあてれば返済する必要はない。

いわゆる給与保護プログラムは需要過多でひっ迫しており、論争の的にもなっている。中小企業のための救済として実施されている貸し付けのほとんどを大企業が奪っているとの批判が上がっている。

別の複数企業は、賃金以外の出費が企業の存続を脅かしているとして、賃金の支払いに焦点を当てたルールを批判している。一方で、低賃金の労働者については、新たに拡大された失業給付を受けるほうがいいかもしれないとしている。

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画像説明, 多くの救済対策では、非公式経済分野で働く人への支援に苦戦している

米ワシントンのシンクタンク「タックス・ファウンデーション」グローバルプロジェクトのダニエル・バン氏は、賃金助成金は、企業の閉鎖が短期間であれば意味があると指摘する。閉鎖期間が長引いて経済状況が大幅に変わるのであれば、あまり効果は期待できないという。

「難しいのは、経済の停滞がどれくらい続くのかや、企業や家庭あるいは労働者がこの停滞を経てどのような立ち位置に置かれることになるのかがわからないことだ」

今のところ、手元に資金がある多くの国はやりすぎるくらいの方がいいと判断している。そして、それさえも十分かどうかを判断するには時期尚早だと、バン氏は指摘する。